● 柔の道 ひと筋に 東海大学副学長 山下泰裕さん
マナー改善へ対話進める
私が国際柔道連盟(IJF)の教育コーチング理事に就任した当時、
他理事との連携は必ずしもしっくりいっていなかった。
そこで私は、2003(平成15)年12月、福岡国際女子柔道大会に、
スポーツ理事のベッソン氏(フランス)、審判理事のバルコス氏(スペイン)を招き、意見交換する場を持った。
3人で腹を割って話し合う中で、話題はコーチのマナー問題になった。
「ヤスヒロ、柔道は教育的スポーツだ。それなのに、オリンピックや世界選手権の時のコーチのマナーの悪さは目に余る。
審判に罵声を浴びせ、気に入らなければいすを蹴る。
これでは柔道のイメージが悪くなるばかりか、柔道の品位も傷つける」と2人。
そして、「そういうコーチは厳しく指導し、場合によっては退場させたい。
退場となったコーチは期間中コーチ席に座れないようにする。お前も賛成してほしい」と提案してきた。
彼らの指摘は分かるが、一方で審判の判定に対する不満や運営面の不備があるのも事実。
さらに、「現場の意見を一番知っている自分が、その声をIJFに反映させるために理事になった」と
大見えを切っていた私が、現場の声も聞かずに賛同すればたちまちコーチたちの信用を失ってしまう。
私は「俺がコーチたちとよく話す。だから2年間時間をくれ。それでもダメだったらペナルティーも考えよう」と
猶予をもらい、問題視されていた国のコーチと個別に話し合う場を設けた。やりとりはこうだ。
「柔道は教育的価値の高いスポーツと言われているが、どう思う?」「そうだ」
「オリンピックや世界選手権に出てくる選手は世界最高レベルの選手だよなあ」「当たり前だ」
「それなら、彼らを指導するコーチも世界最高レベルではないのか」「もちろんだ。お前は一体何が言いたいんだ」
「世界最高の舞台で、世界最高のコーチである君たちが、
コーチ席でひどい態度をとっていたら柔道は教育的価値の高いスポーツだと言えるか?そこを考えてほしい。
もし、何か言いたいことがあったら俺に言って来い。全力を尽くすことは約束する」「分かった」。
それから、彼らの態度は見違えるように変わった。
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