● 2つ目の柔道館を南京に
中国・南京市に完成した柔道場で
中国・青島に日中友好柔道館を建設する話が進んでいる最中、
今度は「次はぜひ南京に柔道場を造ってほしい」という話が持ち込まれた。
過去の不幸な歴史を考えた時、南京に柔道場ができることは素晴らしいことだ。
外務省の草の根文化無償資金協力(上限1千万円)もある。
しかし、次の柔道館は、青島が日中友好に貢献できると証明できてからと考えていた私は、
「柔道館は日本国民の税金で造られる。そんな簡単なものではない」と返答し、半ば門前払いの形で断った。
ところが、2008(平成20)年8月15日の終戦記念の日、
ある全国紙が「南京に日中の柔道場 山下さんも動く」との見出しでこの話を報じたのだ。
水面下で動いてはいたが、実現は先のことと考え、外務省には相談していなかった。
事の詳細を報告すると、「いい話じゃないですか。相手がそれを望んでいるのなら早速やりましょう」。
外務省の担当者は乗り気で、南京柔道館の話が動き出した。
そうなれば、善は急げだ。その年の11月、私は南京大学で講演することになり、
南京に柔道館を造る理由を聞かれてこう答えた。
「これからの日中友好を考える時、南京以上の場所を見つけることはできない」と。
会場からは大きな拍手が沸き起こった。
10年3月、中国で二つ目となる日中友好南京柔道館はオープンした。オープニングには私も参加し、実技指導した。
その後、私は記者に囲まれ「(柔道館に)日の丸と中国国旗が並んでいるが、どう思うか」との質問を受け、戸惑った。
それが当たり前と思っていた私は「二つあって当然でしょう」と答えたが、
南京で日中の国旗が並ぶことは、それほど珍しかったのだ。
私が理事長を務めるNPO法人「柔道教育ソリダリティー」では、青島、南京から指導者を招くなど支援を続けている。
南京柔道場から研修に来た常東さんは帰国後も日本語の勉強を続け、
日本人以上に基本に忠実な指導をしていると評判だ。
今年2月、名古屋市の河村たかし市長が「南京事件はなかった」と発言、中国側の猛反発を買った。
おかげで予定していた南京柔道館オープン2周年記念行事は急きょ取りやめになった。
そんなことが度々繰り返される。だからこそやりたかった。