●「切り札」使った柔道界 重い意味はらむ井上氏の監督起用
柔道関係者いわく「康生は2020年“東京五輪”の切り札」。
井上氏が代表コーチに就任したのは、まだ昨年のこと。
これから指導者として、酸いも甘いもかみ分けようという時期に、柔道界は黄金のカード切らざるを得なかった。
年々、世界の層が厚みを増す軽中量級。人材が底を払った日本の最重量級。
日本柔道のどこを切っても「危機」の2文字しか見えない。
「燃え盛る火の中に手を突っ込むようなもの。よく決断してくれた」。
全柔連の上村春樹会長はいみじくもこんな言葉で、少壮気鋭の新監督を歓迎する。
井上監督が火急の対応を迫られるのは、最重量級の建て直し。
「重量級は常に30キロ、40キロのおもりを抱えて生活をしている。
それが軽量級と同じメニューでは…」と、代表組を一つ所に集める安易な強化合宿からの脱却を誓う。
井上監督のいう「おもり」は、日本柔道を背負う覚悟も示唆していよう。
看板選手として称賛も批判も一身に引き受けた現役時代の経験は、最良の模範として若手に還元されるはずだ。
テーマに掲げた「総合力」には、「心技体」の3要素に「組織力」を付け加えた。
「いろんな方々の力を借りながら、いい組織、いい強化体制を作りたい」。
柔らかな口調で、出身大学別の派閥や所属先の垣根を越えた後押しを求めた。
現役引退後はロンドンに2年間留学し、海外に多くの知己を得た。
国際スポーツの舞台で日本の存在感がかすむ中、
「いずれは国際的な指導者に」(上村会長)という十字架も背負う。
あえて泥船に乗った新監督に恥をかかせることは、日本スポーツ界の損失になろう。
今回の起用は、それほど重い意味をはらんでいる。